【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

稀少な〝忌部〟関連の書籍

 忌部の正体とか忌部の秘密とか、気軽に読めそうな書物は皆目無い。古代史関連の本を百冊ほどは執筆されていそうな関裕二のラインナップを見渡してみても……無い。氏の著作 『神社が語る 古代12氏族の正体』(祥伝社新書)の12氏族とは「天皇家出雲国造家、物部氏蘇我氏尾張氏、大伴氏、三輪氏、倭氏、中臣氏、藤原氏阿倍氏秦氏」で、な、なんと、忌部氏は含まれていないではないか!……

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 筆者が『神神の契約』の全体像を着想したのは約15年前だが、当時、入手できた忌部関連の書籍って、ほぼ、この2冊しかない。
 ★ 『『古語拾遺』を読む』青木紀元監修・中村幸弘/遠藤和夫共著(右文書院)2004年。
 ★ 『古語拾遺斎部広成撰・西宮一民校注(岩波文庫)1985年。
 右文書院のそれには現代語訳が付いていて大判で文字も大きく読みやすいが(その分高価)2冊の中身に大差はなく、必要最低限の解読本だ。
 だがつい最近、もう一冊出版されていたことを知った。

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 ★ 『現代語訳古語拾遺菅田正昭著(新人物文庫)2014年。
 前二冊とは違って、煩雑な補足説明(ネットでも検索可能なもの)は付いておらず、著者独自の【註】は読みごたえがある。また、第二章『古語拾遺』の研究「『古語拾遺』の成立と斎部氏の歴史」にページの約半分が割かれており、忌部研究本として(すこぶる)充実している。巻末には「全国忌部系神社一覧」などもあって、この本の存在を知っていれば『神神の契約』を書くさいに随分と近道できたのにと悔やまれる。
 手軽に読める忌部関連の最高の良書だろう。だがしかし、今現在は転売屋の餌食にされてしまい法外に高騰して入手は容易ではない。発売された時期が悪く、新人物往来社中経出版に買われ、さらにカドカワに買われ、と出版元が三重構造になっているせいで重版のめどが立っていないのだ。この種の良書が埋もれてしまうのは、実に惜しい。