【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る〝古代の大使館〟

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「この忌部の玉作の代わりに、物部氏香取神社みたいなのを置いたとしたら、どうなると思う?」
「即戦争やあ」
 土門くんは、ことのほか嬉しそうにいう。
「忌部って、原則戦わない人たちなので、許されたのかもしれないわ。それに出雲玉作の遺跡は、弥生時代の末頃まで遡れて、つまり200年代前半よね。そしてこの頃は、忌部はすなわち、ほぼ倭(やまと)朝廷と等しいので、ここが交渉の窓口を兼ねていたと思われるのよ」
「その交渉いうんは、大国主命の国譲りやろう?」
 まな美は、こくりと頷いてから、
「だからつまり、ここは〝古代の大使館〟だったわけなのね」
「まあ、それはいえへんこともないこともあらへんこともなさそうや」
 土門くんは煮え切らない態度で、ねっちりくっちりいう。
「それに思川(おもいがわ)のところの小山の安房神社も同じでしょう。あそこは毛野王国の領土内だったんだから」
「それは確かに……そんな関係で、武蔵国造の乱のときには、南武蔵の小杵(おき)が、あんな奥地にいた毛野の王様に援(たすけ)を求めに行けたわけや。もともと知り合いだったわけやな」
「そうそう、鹿島・香取の両神宮を守護していた大麻神社があったでしょう。あれもまさしく〝古代の大使館〟よね」

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「ほんまや、地図を見たら最前線にあるやんか」
「古代、倭の敵だと考えられていたような地域に、忌部は拠点を設けていたのね。蝦夷、毛野、そして出雲。古代の忌部が担っていた役割が、見えてきたじゃない」
「まあたしかに……」
出雲族と忌部は、古くからの知り合いだったことが分かるわよね。そういったことを踏まえて、大宮の氷川神社、すなわち出雲族入間川への入植を考えてみると、真相が見えてくるはずなのよ」
「なるほど、そうつながるわけか。元の話にやっと戻ってきたぞう。そやけど、そもそも何の話をしとったんか忘れてしもたやんか?」
上円下方噴という特殊な形をした古墳の話よ。さっき土門くんがいみじくも、出雲族は四角が好き、とか言っていたでしょう。あれがヒントになるのよ……」
 まな美は、謎めかしていった。

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                         さらにつづく