【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る〝出雲族〟入植の秘話

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「これまでの情報を整理するから、簡潔に答えてね」
 と、まな美は土門くんに釘を刺してから、
「出雲が倭(やまと)に恭順の意を示したのは、いつ?」
「最初の前方後円墳を造った、つまり400年ごろや」
「武蔵の入間川(いるまがわ)沿いに最初の古墳が造られたのは、いつ?」
「たしか……400年ごろ、もしくは300年代末あたりや」
「出雲で、前方後円墳の直前に造っていた古墳の形式は、何?」
「方墳や、四角い古墳」
入間川沿いの最古の古墳は三変(さんぺん)稲荷神社古墳だけど、その形式は何?」
「え~こっちも方墳やったんとちゃうやろか」
「そう。これですべて辻褄は合うでしょう」
「なるほど……倭に恭順の意を示して、つまり倭の一員になったんで、晴れて東国への入植が許されたいうわけやなあ」
「まあ、そうなるわね」
「じゃあ許可したんは忌部なんか?」
「年代的にいって、忌部すなわち倭、ではなくなってきていたはずなので、旧知の仲だった出雲族に、当時は未開だった東国への入植を勧めて、その手引きをした、て感じでしょうかね」
「自分、今ええ言葉を思いついたぞう」
「なに?」
土地ぶろーかーや。ええ土地ありまっせ~いうて都会人をだまくらかしてど田舎の不便な土地を高値で売りつけんねん」
 土門くんはひと口言葉のように早口でいって、まな美は笑いながら、
「それって、当たらずといえども遠からずなのよね」
「ええ? こんな思いつきの発想で合うとんかあ?……」
「古代の入間川沿いって、もう1、2を争うほどに悪い土地だったので」
「わ、悪い土地やったんか!……」

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「とはいっても、忌部が先行して入植した多摩川沿いの武蔵野台地を別にすれば、関東平野には良い土地がほとんど無かったのよ。とくに氷川神社のあたりはひどくって、見沼(みぬま)と呼ばれていた沼だらけの場所で、浮島のようなのをやっと見つけて、そこに神社を建てていたのね」
「場景が浮かぶぞう……それに入間川流域は、小さな古墳だらけやったやんか。日々生活すんのも大変やったのに、忌部からは、埴輪を買え~埴輪を買え~とせっつかれて、あくどい土地ぶろーかーに、もう骨の髄までしゃぶられとったいう感じや」
「そ、そこまでひどくはないわ!……」

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                         さらにつづく