【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る〝忌部帝国〟の実像

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「これまでの話をふまえて、地図をあらたに作ったぞう。古代の南武蔵の中心街は、橘花(たちばな)の屯倉(みやけ)で、数キロ南には〝南斗〟のお祭り会場があって、すぐ酔っぱらいにいけるという楽園や」
「あら、下総国(しもふさのくに)の国庁跡も描いてくれたのね」
「意外なとこにあると姫が言うとったから、調べてみたら、ほんまに意外なとこにあった」
「忌部の湊・鷲(おおとり)神社のわきを隅田川が流れているでしょう。そこを越えて東は、現在は東京都葛飾区だけれど、古代では、そこは下総国だったのね」
 ――葛飾区の南は江東区だが江戸時代以降の埋め立て地で古代には存在しない。こちらの地図を参照
「ふーてんの寅さんは江戸っ子やろか」
 土門くんは、ぼそっと呟いてから、
「ほな、だいたいそのあたりが古代武蔵に君臨しとった〝忌部帝国〟の東の端っこ、いう感じやろな」
「ところで、忌部帝国って名前にするの?」
「忌部王国いう感じするか? 王様は見当たらへんぞう」
「帝国って、どこか悪いイメージがしない?」
「そやったらローマ帝国大英帝国は悪者(わるもん)なんか? それはスターウォーズの帝国軍の影響や。だん、だん、だん、だーだだん、だーだだん……♪」
 と、土門くんはダース・ベイダーのテーマ曲を口ずさむ。
「あら、きっとそうね」
 まな美は妙に納得してから、
「鷲神社から北へいくと越谷市があるでしょう。浄山寺(じょうさんじ)が建っている場所よね」
「お地蔵さんがおってのところや」
「その浄山寺の近くにも、小さな久伊豆(ひさいず)神社があったので、だからこのあたりが東の端っこよね。さらに北上していくと利根川に当たって、古代では古(こ)利根川だけれど、これが忌部帝国の北の端っこよね」
「西の端っこは、どのへんや?」
「北武蔵は、この地図の左端までぐらいは入ると思うけれど、南武蔵は、府中の大國魂神社をこえて西側には、杉山神社は無いのね……」
「八王子という、いかにも関係ありそうな地名があるやんか?」
「それは保留ね、北斗七星や忌部と関係するかどうかは、真剣に考察してみないと」
「そやったら、南の端っこは?」
横浜市に有名な星川・杉山神社があって、杉山神社の分布的には、そのあたりが南限なのね。けれど、やはり杉山神社がある町田市からは、南へ流れている川があって、境川(さかいがわ)と呼ばれるそこそこ大きな河川で、それが江の島まで通じているのね」
「お、江の島へ行けるんかあ、南斗の候補地のひとつやんか」
「途中に山や沼はないし、比較的平坦な台地が続いていて、土地として有効利用できそうな感じはするんだけれど、杉山神社の分布からいくと、横浜市あたりで左右にスパっと線を引いて南限だとしておくのも手だと思うわ」
「もうそのへんは誤差の内やぞう。ほなざっとでいくと、南北80キロ・東西50キロが、晴れて忌部帝国の領土となったわけや。北武蔵と南武蔵に挟まれとった出雲族が、ついに根負けしてしもて裏にひっくり返ったせいで」
「それはオセロね」
 まな美は、なおも呟いている。
「忌部が北武蔵へ入植したんは、ざっと450年ごろやろう。そのときに契約の神殿を70キロも離して建てとおんやけど、そっからちょうど200年後の、650年に、忌部の野望は叶えられたわけやな。まあなんと気の長い話やろう」
出雲族は、入間川への入植を斡旋された時点で、忌部帝国の準構成メンバーだった可能性が考えられるわよね」
「準構成員やな」
「その員という言い回しは使えない慣例なの!」
 と、まな美は台バンする。
「そやそや、倭(やまと)王国の地図もあらたに作ったんやで。おなじく600年代、そっちはそっちで何をやっとったかが即わかるという便利地図やあ」
「期待しているわ……」

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                         さらにつづく