【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る〝大化の改新〟の暗黒面

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「……意外にシックな地図ね。それに便利地図とか言ってなかった? どこがどう便利なのかしら?」
「見たら即わかるやんか。倭(やまと)王国には、変化はとくに無かったということが」
「そ、そんなあ!……」
 まな美は、炬燵の中でじたばた暴れている。
平城京は700年代の話なんやで、それを付け足してやって、この程度やあ」
 と、土門くんは恩着せがましく吼えてから、
飛鳥時代とかいうやろ、あんまり一般的ではあらへんけど、だいたい600年代をそういう。天香具山の南側が〝飛鳥〟と呼ばれとった地域で、そのへんに歴代の天皇さんが宮殿を建てて住んではったからや。そして600年代の末に、藤原京という初めての条里制の都を作るんやけど、これは大和三山の内側に作って、それほど大きくはあらへん。神武天皇が即位した伝説の橿原宮(かしはらのみや)も、大和三山畝傍山にあったそうや。西暦200年ごろからずーとこのへんで生活しとったんを、500年後にやっと、北の方も使おうと思いたって、平城京を作って遷都したわけや」
斑鳩宮(いかるがのみや)があるじゃない。大和三山からは離れて。これは聖徳太子でしょう?」
「そや。冒険心のある人やったんかもしれへんな。ちなみに法隆寺も、このへんに建てられた。聖徳太子は622年に亡くなりはって、その斑鳩宮には、山背大兄王(やましろのおおえのおう)などの子孫が住んではったんやけど、643年、蘇我入鹿に襲われて、世にいうところの上宮(じょうぐう)王家滅亡事件が勃発するわけや」
 土門くんは、ふむ、と小難しい顔でうなずいてから、
「ここを境にして、がらりと雰囲気が変わるねん。600年代の前半は、とくに聖徳太子がいてはってのころは平和な時代や。十七条憲法が作られたりして夢と希望にあふれとった。そやのに、この上宮王家滅亡事件以降は、殺戮と戦争だらけの暗黒面へと落ちていくわけや……♪」
 と、土門くんはダース・ベイダーのテーマ曲を口ずさむ。
「たしかにそうよね。その2年後は乙巳(いっし)の変で、蘇我入鹿は暗殺されて蘇我宗家は滅亡し。味方をしてくれた蘇我倉山田石川麻呂(そがのくらやまだ いしかわまろ)は、功績で右大臣にすえたのに、後年あらぬ疑いをかけて妻子ともども殺害されたし。645年、皇極天皇が退位して皇位につくことを勧められた古人大兄皇子(ふるひとのおおえのみこ)は、それを断って出家して吉野に隠遁していたのに、謀反を企てていると攻め滅ぼされたし。やむなく即位して大化という元号を日本で始めて制定されたのは孝徳天皇だけれど、息子の有間皇子(ありまのみこ)は、これも謀反の嫌疑で処刑されてしまったし」
大化の改新みたいな奇麗ごと言うとうけど、どす黒いクーデタやったいう説が有力や。なんせ首謀者のひとりが中臣鎌足やからな。藤原氏の絡んだ歴史に真実はあらへん!
 それは最近の歴史部の標語(合言葉)なので、まな美も、うなずいてから、
「もうひとりの首謀者の中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)、後(のち)の天智天皇も、評判は芳しくないわよね。とくに朝鮮半島有事に関しては」
「663年、白村江の戦いで大敗した。これはしゃーあらへん。新羅の単独やったら勝てたやろうけど、さすがに唐には勝たれへんな。問題は事後処理や。あまりの戦力差に恐れをなした中大兄皇子は、九州のみならず、そこらじゅうに城を建てまくって、あげくのはてには、飛鳥は知られとって危ない、唐・新羅連合軍が責めてくる~と、667年、琵琶湖の大津に京(みやこ)を遷して隠れ住んだわけやあ。そこで正式に天皇として即位したんやな。そやけど、そんな田舎には誰も付いて行きとうあらへんかったんで、放火されまくったそうや」
「放火するの?」
「人心が荒廃しまくっとったら、そうなるんやて。宮殿を建てては燃やされ、建てては燃やされ……そうこうしとったら4、5年で亡くなりはって皇位継承でもめ、そしてついに、ついに起こったんが、672年、日本の古代史上最大の内乱、古代の関ヶ原といわれとう、壬申(じんしん)の乱やあ」
壬申の乱よね」
 と、ふたり仲良く合唱する。
「2万の兵力どうしの大戦(おおいくさ)や。そやねんけど、大河ドラマでは一度もやったことがあらへんので、知っとっての人は少ない」
「あら、やってないんだ……?」
関ヶ原は武将の戦いやけど、こっちは天皇さんどうしのガチの戦いやからドラマ化は無理……」
「ところで土門くん、忌部は、どちらに味方していたと思う?」
「そらあ、勝ったほうちゃうのん」
「それは結果論よね。実際、大海人皇子(おおあまのおうじ)、後の天武天皇の味方をしていたのね。これには、知られざる証拠があるのよ」
「へー、どんなやつやあ?」
「土門くんの便利地図とは違って、きちんとした証拠よ!」
「そ、それはそれは……」

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                         さらにつづく