【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る〝忌部連合国〟の巨大さ

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 〝忌部置換の方程式〟より〝渡来人不要の法則〟が良いとまな美はいい出して、そのときどきの雰囲気で使い分けようとふたりは合意してから、
壬申の乱で、忌部が大海人皇子の味方をしていた証拠は、実は『日本書紀』にもあって、忌部の子人(こびと)という人が、大海人皇子直属の将軍・大伴(おおとも)の命をうけて、古き京(みやこ)すなわち飛鳥を守るために派遣されたという記事が」
「あれ? 忌部って戦わへん一族ちゃうのん?」
「天下分け目なので、やむをえず駆り出されたらしいのね。この人は元来文官で、天武天皇が、帝記(ていき)及び上古の諸事を記し定めしたまふ、と、その後の『古事記』や『日本書紀』編纂につながる命を出したさいに、忌部小人は、その中心執筆者のひとりに任命されるほどの、当代随一の学者さんだったのね。そして実に驚くべきことに、西暦700年を過ぎてから、出雲国の初代の国司に任命されたのが、その忌部小人だったのよ」
「ええ! 出雲の国司にか……?」
 土門くんは、実際に驚いていった。
「太古からの両者の関わりが考慮されての任命よね。それに、当時の倭における出雲族の地位は、今では考えられないほどに低かったと思えるのよ。毛野王国や吉備王国の末裔なら、名のある貴族が文献にたくさん登場してくるけれど、出雲族出身の貴族なんて、わたしは一人も知らないわ」
「なるほど、その忌部の国司は、いわゆるお目付役か。もしくは出雲族の後見人やろか。世話役ともいえそうな……」
 土門くんは、ふさわしい言葉をあれこれ探している。
「そういった倭での状況をふまえて、武蔵国へ話を戻すと、より詳しい古代の歴史が見えてくるはずなのよ」
「姫がそう言い出すんを待っとったぞう。特別な地図を用意してあんねん。縮尺を合わせて作った倭と武蔵の比較地図やあ。ほな、でで~んと」

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 まな美は思わず、小さ、と呟いてから、
「どこかしら悪意が感じられる作りよね」
「な、なに言うてんねん! 忌部帝国の偉大さを如実にあらわしとう地図やんか。それに武蔵の忌部帝国だけでこれやで。安房・阿波・讃岐・伊豆諸島の忌部連合国を加えたら、もうめっちゃくちゃ巨大になるぞう」
「そうそう、その忌部連合国だけれど、それは弟の領地だけなのね。忌部にはお兄さんがおられたじゃない」
「お兄さん……?」
「『魏志倭人伝』では投馬国の副官の彌彌那利(みみなり)、『古事記』では、僕(あ)は汝をたすけて忌人(いわひびと)になって仕え奉らむ、といった神八井耳(かむやいみみ)命で、つまり綏靖(すいぜい)天皇のお兄さんね。この神八井耳命の領地は日本各地にたくさんあったらしいので、そちらの地図も作って欲しいわ」
「他人事(ひとごと)みたいに作れ~作れ~と姫はいうけど、そうそう簡単には地図は作られへんのやあ……」
 と、土門くんは嘆くのだった。 

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                         さらにつづく