【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る忌部の「北斗・南斗」信仰の名残

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「つ、ついに見つけたわよ! 土門くん!」
「なにをや姫ぇ~」
 まな美の興奮とは裏腹に、土門くんは脱力感満載だ。
「歴史改変の証拠よ! 忌部の足跡を消し去ろうとしていた実行犯を見つけたの! いわゆる黒幕ね!」
「黒幕? そんなんより幕の内弁当の方がええなあ」
 土門くんは意味不明のことをのたまふ。
「シャキっとしなさい! 三時のおやつまでもう少しなんだから」
 まな美は、台バンして叱ってから、
下野国鷲宮神社を調べていたのね。すると〝宮〟が付いていない〝鷲〟の神社を、いくつか見つけたの・・・・」

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「・・・・それが、この地図と説明ね」
「へ~……鷲の子と書いて、とりのこと読むんかあ」
「鷲子の神社は、祭神はすべて天日鷲命で、すなわち阿波忌部の祖神ね。とくに鷲子山上神社は有名で、ちょうど県境にある鷲子山(とりのこさん)の山頂に建てられ、参道の石段や社殿の真ん中を境界線が通っていて、左側が栃木県、右側が茨城県だそうよ」
「なっ、なんともはや……」
「それにフクロウの神社として知られていて、水掛けふくろうとか九星ふくろうとか十二支ふくろうとか、お願いふくろうもあって、境内のそこかしこにフクロウの像が立っているんですって」
「なんでふくろうなんやあ?」
「苦労が無いから、不苦労なんだそうよ。けどわたしが思うに、福禄寿(ふくろくじゅ)から来ているんだと思うわ」
七福神のかあ……あっ、それ南斗老人のことちゃうのん?」
 土門くんも気づいていった。
「そうなのよ、ここ鷲子山上神社には、忌部の北斗・南斗信仰の名残が、そこかしこに残っているのね」
「名残が……残っとうぞう」
 土門くんは、聞こえないぐらいの小声で揶揄する。
「この鷲子山上神社の例祭は、あの〝夜祭り〟で、創建以来の古儀を伝えるとされているわ」
「うちらみたいな清き正しき青少年にとっては内容は言えへんやつやな」
 ――『燃えよ剣』に書かれてあった〝くらやみ祭〟のことである。
「それも当然あったと思うけれど、ここの夜祭りの特徴は、古式ゆかしい神人共食(しんじんきょうしょく)にあるそうよ」
「……なんやそれ? 人食いの儀式か?」
「ちがうわよ。神と人とがお供え物を一緒に食べるという意味。……要するに、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎのことよ。そうすると南斗の神様は喜んでくれて、氏子たちの寿命を延ばしてくれ、それに南斗は神饌の中継地だから、お供え物は北斗にも届くというわけね。とかく学者さんたちは、小難しい言葉を使いたがるのよ」
 まな美は皮肉っぽくいって、土門くんは力なく苦笑している。
「ここの境内には〝三本杉社〟という小さな社があって、夜祭りは、その前でとりおこなわれるのね。これはつまり、阿波の南斗の若杉山遺跡や、南武蔵の南斗の杉山神社と同じものだと思うわ。忌部の北斗・南斗信仰の古(いにしえ)のものを、そのままそっくり移植していたのね」
「そやけどそれ、例によって誰も知らへんのやろ?」
「そうみたいね。わたしの調べた限りでは、誰も気づいてないわね。だって忌部が北斗・南斗信仰だったなんて、わたしたち以外誰も知らないんだから」
「それはそうとしてやな、地図の⑬番の鷲神社、祭神は秘密……いうんは何や?」
「それがキモなの。歴史改変の証拠なのね」
「え~……その歴史改変いうんはSF用語やぞう。タイムマシンで過去に戻って歴史を変えるみたいな。歴史修正主義とか言うから、歴史修正、もしくは歴史改竄とかがええんちゃう?」
「その歴史修正はよく使うけれど、歴史を正しくするという意味だから、誤用よね。それにわたし、改竄って言葉は、なんだか嫌いなのよ」
「まあ姫のその独特の漢字感覚は尊重するとしてやな、今地図を探しとったんやけど、どない探しても⑬番が見当たらへんやんか?……」
「そうなのよ。この地図には描けなかったのね。安房神社と重なってしまうのよ。だからもっと大きな縮尺の地図を作ってくれない。あれ? 小さな縮尺かしら?」
「言いたいことは分かる。そやけど前にも言うたように、地図描け~地図描け~とせっつかれても、そないに簡単には地図は作られへんのやあ」
 と、土門くんは弱々しく嘆くのだった。 

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                         つづく