【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

ムー 2023 年 10 月号「神託」補足説明

《古代の超能力「神託」の秘密・ギリシアと日本を結ぶ「幻視」のメカニズム》
 この記事の補足説明です。

 ★クロイソス王の物語は、ほぼ全てがヘロドトス著『歴史(historiai)』にあったものです。BC5世紀ごろの有名な書物ですが、そんな中に、現代にも通用する「超能力の検証実験」が語られていたとは、驚きです。世界史で習うはずだからヘロドトスは知っていても、実際に『歴史』を読む人は少数なのでしょう。

 ★クロイソス王が建造した古代七不思議の一つアルテミス神殿は、これに嫉妬したギリシア本国が同規模の神殿を建てようと試みたのですが、何百年もかかって結果失敗したほどの荘厳な建造物だったそうです。ところが、アルテミス神殿は《エフェソス》に建っていたのが不幸の始まりで、エフェソスといえば「エフェソス公会議」が有名ですよね。キリスト教全体の公の会議で、そんな催しが行われた場所だから、すなわちキリスト教の聖地となってしまって、するとアルテミス神殿は邪教の館として敵視され、またたくまに解体されて、教会などを造る建築資材に流用されてしまったそうです。近年、イスラムの過激派が遺跡を破壊して非難囂々ですが、長い歴史で見れば、キリスト教徒の方がはるかに多くの貴重な文化遺産を破壊してきたはずです。

 ★ノストラダムスの「水盤占い」の話は、ローズマリー・エレン・グィリー著の『魔女と魔術の事典』のノストラダムスの項に記述があります。大筋は正しいんですが、大半はデタラメで、ですが参考までに引用しときましょう。
「彼(ノストラダムス)が手本として応用した方法は、小アジア西岸ディデュマのアポロン神託所の創設者ブランクスによって実践されたと伝えられている魔術的祭儀である。夜になると、螺旋階段を上がって最上階の書斎に一人引きこもり、真鍮の三脚のついた水盤に水を一杯に張る。デルポイの巫女が持っていたとされる月桂樹の杖を片手にその三脚に触れ、水を数滴、自分の服に塗りつける。それから静かな水面を見入り、それがにわかにかき曇ると、幻影が見えてくるのであった。」
「ディデュマのアポロン神託所の創設者ブランクス」の話はどうでもよく、本家のデルポイでやっていた方法を真似たにすぎません。アポロン神託所は人気が高かったので、各地に分家が誕生したんです(日本の神社と同じ)。火山で埋もれたポンペイにもアポロン神殿がありました。
「月桂樹の杖」のくだりはデタラメですが、「真鍮の三脚のついた水盤」の話は、意外と正しいです。

 壷絵では、ピュティアが三脚椅子に座っていますが、三脚座は水盤の台として使われた、と考える方が理にかなっているからです。なお、この三脚座は神託所を象徴する物品で、それをめぐってアポロンヘラクレスが戦ったという逸話があったりします。

 ★「囚人の映画」という聞き慣れない用語は、オリヴァー・サックス著『幻覚の脳科学・見てしまう人びと』の中にあったものです。オリヴァー・サックスは、有名な映画『レナードの朝』の原作者です。これは30年以上前の映画なので、原作者も当然高齢となって、というより2015年にすでに亡くなっておられ、この『幻覚の脳科学』は2014年で彼の最晩年の著作です。けれども、今世紀の本なので、あの「シャルル・ボネ症候群」に関しては、かなりのページをさいて書かれています。現在読むことができる「シャルル・ボネ症候群」について最も詳しい本がこれだと言えるでしょうか。けれど彼は、超能力・霊能力との関係については(知ってか知らずか)一切言及されていません。

 ★幻視を見るには大別して3つの方法がある。①道具。②薬物。③シャルルボネ症候群。と記事には書きましたが、さらに2つほど追加です。
 ④脳の病気や怪我などによってシャルル・ボネ症候群と似たような症状を呈します。クローネンバーグの映画『デッドゾーン』では、自動車事故で昏睡状態になった主人公が目覚めると超能力が覚醒します。つまりこれの元ネタですね。
 ⑤目の瞳孔を随意に開かせることが出来、すると画面(脳の視覚野)に白ボケを生じさせ、そこに幻視を映し出すことが出来る、といった方法です。
 極めて特異な話で恐縮なんですが、筆者は2例知っています。つまり2人しか知りません。ともに女性で、1人は中国人の医者です。20数年前に夜6時頃のニュース番組の中で紹介されました。当時はこの種の話を堂々ニュースで放送するほどの良い時代だったんですね。「××さんの目は不思議」といったナレーションとともに、ふあ~と瞳孔が開いていく様子が映像に撮られています。彼女は他人の病変を透視できたんです。極めて正確に。
 もう1人はヨーロッパの(当時は)大学生女子です。これも20年ほど前ですが、同様に他人の病変を透視できました。とはいっても未熟です。先の中国人医師は、解剖学的な人体図が自身の脳に正確に記憶されてあったので、おのずと透視も正確になるんです。
 この大学生女子は、日本に招待してテレビ番組が作られました。そこには私も出演していたんです。で、中国人医師の事例もあって理屈はある程度分かっていたので、テレビスタッフに、目をアップで撮影しといて下さいね、と事前にお願いしてあったので、ちゃんと撮られています。
 ところが、2番組ともVHSに録画されてあって、何とかしてユーチューブなどにアーカイブとして残そうと考えてはいるんですが、いつのことになることやら・・・・・