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「城の南は南斗の形をなし、北は北斗の形をなし、今人に至りて漢の京城を呼びて斗城と為すは、これなぁ~り」
中国古代の地理書『三輔黄図』の一節を、土門くんは滔々と読んでから、
「漢の京城とは、劉邦が紀元前200年ごろに造りはった漢の長安城のことや。その詳しい地図を見つけてきたんで、ほな、ででーんと」
「どこから盗ってきた図なのよ? 原典は分かっているの?」
「中国人著作権、無問題(もうまんたい)」
土門くんは、あやしげな中国語を呟いてから、
「右側のは維基百科という中国語版ウィキペディアにあったやつやから、たぶん大丈夫や。漢字が日本風やから分かり易いやろ。そやけど、中国本土からは金盾とかでブロックされとって読まれへんそうや」
「あら、繁体字で書いてくれているのね。漢字って、漢の国から齎された字だから漢字なのに、その漢という字を、サンズイに又と書く、いわゆる簡体字に変えてしまったんだから、中国は何を考えているのかしら」
まな美は、ぶつくさと文句を言っている。
「左側のやつは、確証はあらへんねんけど、たぶん中国の文物出版社いうとこが2003年に発行した本が原典で、著者は、劉・・・なんとかさんや。本の表紙の写真を見つけたけど、これは検索したら絶対にあかんぞう」
「ど、どうしてなの?」
「――詐欺サイトに繋がっとうからや! 写真を何枚も使こて丁寧に本の内容を説明しとって、8割引とかで値段が安いから買いそうになって、けどぉ~安すぎるなぁ~と念のために店の名前を検索してみると、1発で詐欺サイトやと出てくるやないか! こんなまにあっくな本で人を引っかけようとするなんて、どないな根性しとんねん。もうちょっとで引っかかりそうになったわい! 中国がからむと碌なことがあらへん!」
と、土門くんは吠える。
ふたりしてしばし怒ってから、
「城の南は南斗の形をしとって、北は北斗の形をしとうそうや。北の方は、そこそこ分かり易いぞう。城壁の形に注目や」
まな美は、地図をじーっと眺めているだけで、言葉を発しない。
「ふ、ふ、ふ、ふ、姫の弱点は知っとうぞう。地図を読み解くのは苦手や」
「そ、そんなことないわよ!」
「しょちゅう道に迷とうやんか。ヒントはなや、北斗にあった二重星や。ミザールとイワザールぅ」
正しくは、ミザールとアルコルであるが、
「ほれ、ここが二重星になっとうやんか」
と、土門くんが地図に赤丸をつけた。
「そしてこうやって辿っていくと、ちょうど北斗七星の形になっとうねん」
「なるほどねえ」
まな美は、しばし感心してから、はたと気づいていう。
「二重星の位置って、確か尻尾から2つ目じゃなかったかしら。位置が違っているじゃない!」
「ば、ばれたかあ・・・・・」
土門くんは、大袈裟に頭をかきながら、
「姫は地図が苦手やからこれで騙せる思たんやけどやっぱりあかんかったなあ。実をいうとな、正解はこっちやねん、ほなでで~ん」
と、次なる図面を提示した。
「1か所に星が密集しているじゃない!」
「それはしゃ~あらへんなあ。信じる者は救われる。鰯の頭も信心から。竹箒も五百羅漢。当たるも八卦当たらぬも八卦」
土門くんは、妙な格言を羅列する。
「それに、南斗六星の方は? どうなっているのよ?」
「それはやなあ、また何かのついでのおりにでも」
そちらはさらに自信がないらしく、土門くんは胡麻化してから、
「この長安城の真北に劉邦のお墓があったわけやあ。そっちの地図は自分で作ったぞう。ほな、ででーん」
と、強引に話を進めていった。
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