【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る〝大国主の神裔〟と〝前玉比売〟

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「『古事記』に、大国主の神裔(しんえい)と呼ばれる系図が記されてあって、そこに前玉比売が登場してくるのよ」
「どんな話なんやこれ?」
「物語はなくて、単に系図だけで、大国主の子孫が列挙されているのね」
「するとやな、青色は男神で赤色は女神様やから、大国主の……ひ孫と前玉比売は結婚するわけか。その、はやみか~とかいう長ったらしい名前の神様はなにもんなんや?」
「だから、物語がないので正体は不明なの」
 まな美は念押ししてから、
「けど少しなら推理できるわ。スサノオは八岐大蛇を退治してクシナダヒメと結婚したでしょう。できた子供は八島士奴美(やしま じぬみ)神といって、そこから六代目が大国主ね。速甕之多気佐波夜遅奴美(はやみかのたけさはや じぬみ)神と語尾がいっしょで、おなじく〝じぬみ〟の神なのね」
「じぬみ?……それひょっとして、地主みたいなもんか?」
「そう」
 まな美は笑顔でうなずいてから、
「語尾に美しいという漢字が使われていて、見目麗しい地主様って感じかしらね。そしてジヌミの神って、この二神しかいないのよ。八島士奴美神は、八つの島だから、日本全土の地主の神様という意味ね。すると、速甕之多気佐波夜遅奴美神は?……意味はさておいて」
「なるほど、別の場所の地主の神様なんか、意味はさておき」
「そう考えられるわよね。出雲族が別天地の入間川沿いに入植して、そこの地主の神様ね。結婚相手の前玉比売は、さきたま古墳群の前玉神社にしかいないので、そう考えるのが自然でしょう」
遠距離恋愛よりも近所の職場結婚いう感じやな」
「う~ん、その喩えは今一だけれど」
 まな美は、駄目出ししてから、
「知ってのとおり、サキタマヒメはもう一人いて、三宅島の佐伎多麻比咩ね。けどこちらは三嶋大明神の妃(きさき)で、8人の子供がいてと、伝承が違うわよね」
「関係はあるけど、いわば遠縁の姫様やな。前玉神社に祀られとってのは、前玉比売と前玉彦やんか。すると、はやみか~が前玉彦になるんか」
「まあそう考えるのが自然よね。そして前玉神社が建っている浅間塚古墳は〝太陽守〟でしょう。中国の星図〝星官〟では、天帝の宮殿の門を守備しているわけね。忌部と出雲族の双方の子孫が婚姻関係をむすんで、忌部の聖地であるさきたま古墳群を護っている構図なのよ。いかがかしら? 文献、古墳、そして神社、すべてで奇麗に辻褄あってるでしょう……」
「ふむふむ、まさに『神神の契約』ばーじょん2やな」
 土門くんは、炬燵の中に突っ込んだ手で拍手している。
「実はね、とっときの秘密がもう一つあるのよ」
「な、なんや?……」
大国主の神裔の系図には、前玉比売の父親の名前が記されてあったじゃない」
「どれどれ……あめのみかぬし、なんか聞いたことがあるようなあらへんような、なにもんなんやこれ?」
「あっと驚く神様よ……!」

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                         さらにつづく