【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る「偽(にせ)鷲神社」の総本山

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藤原秀郷(ひでさと)は、一般的には、あの〝平将門の乱〟を鎮めた武将として知られているわよね」
「それは天慶3年、940年の話やあ」
「秀郷は、生まれは京だったらしいんだけれど、比較的若くして下野国にやって来て役所づとめをしていたのね。とはいっても、秀郷の父親の藤原村雄(むらお)は、下野の国司で、祖父の藤原豊沢(とよさわ)は下野の押領使(おうりょうし)でと、代々下野に地盤があって、そこを継いだ豪族の首領(ボス)って感じよね」
「どこぞの国会議員とおんなじやあ」
 と土門くんは、小声で揶揄する。
「そして930年代の後半あたりに、押領使に任命されたのよね」
「警察署長みたいなもんやろ。そやけど、秀郷は勝手に戦こうて勝手に勝ってしもたんで、押領使という官職は後付けやいう説もあるぞう」
「彼はなぜ勝てたのかしら? 国府軍をつぎつぎに打ち破って東国八カ国を手中におさめ『新皇』を自称するほどに強かった平将門に?」
「それはやな……時の運や」
 面倒臭そうに土門くんは答える。一説には、不運にも流れ矢が将門の額をつらぬいて絶命したそうである。
「ともかくも、この功績で秀郷は大出世をとげて下野守に、つまり下野の国司になったのね。のみならず武蔵の国司も兼任して、さらには鎮守府将軍にまで叙せられるのよ。こちらは名誉職だけれど」
「将門にとってかわっただけやんか」
「朝廷には刃向かわない従順な将門ね。そしてふつう国司って、任期を終えると京に帰るんだけれど、秀郷は帰らずに下野に居ついてしまったのね。現在の佐野市あたりに城を構えて、地図でいくと⑦の近辺で、その秀郷の子孫たちが、いわゆる坂東武者の一大ファミリーを構築するわけよ・・・・」

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「・・・・自称・藤原秀郷の子孫というのもいたはずだけれど、すごい勢力でしょう。そんな秀衡が、みずから創建した神社がたくさんあって、その中で興味深いのを上に示したわ」
「⑬番の鷲神社、祭神は大己貴命(おおなむちのみこと)になっとうけど、これは要するに大国主命やろ?」
「そうよ」
「そやったらこの鷲神社は、どないな伝承になっとんや?」
「そんなこと、わたしが知るはずないじゃない。秀衡が勝手に作っているんだから」
「そ、そんな無責任な……」
 ふたりして、しばし揉めてから、
この地図で分かるように、忌部の神々に囲まれていて藤原としては窒息するでしょう。だからといって、いかに国司といえども、忌部の神社を破却したり、祭神を変更したりはできないのね」
「神社には氏子がついとうから、戦争になるな」
 まな美はうなずいてから、
「けれども、神社を新しく作るんだったら支障はなく、とくに国司みたいな権力者だったら自由自在に作れたのよ。要するにこの鷲神社は、鷲宮や鷲子など、たくさんある〝鷲〟系神社の祭神を、あやふやにするために創建されているのよ」
「あやふやに?……」
「実際、鷲神社というのは関東一円にたくさんあって、たぶん百社ぐらいはあって、その大半が祭神は出雲族の神を置いてるのね。つまり秀衡の子孫たちが、坂東武者たちが、この鷲神社をあちこちに勧請しまくっているわけよ。そして結果、本来の鷲系神社の祭神、天日鷲命が駆逐されていってしまうのね」
「そやったら何かあ、この⑬番の鷲神社は、いうならば偽(にせ)鷲神社の総本山なんか?」
「まさにそう! わたしが調べたかぎりでは、鷲神社で、祭神が出雲系の神の最古の神社が、これよ!」
「ふむふむふむ……姫はつぎからつぎへと変なもんを発見するなあ」
 土門くんは、なかばあきれていった。

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                         さらにつづく