【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る「忌部の神々に窒息する藤原氏の国司」

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 「中臣鎌足は藤原姓をたまわって、子供の藤原不比等は、幸運にも壬申の乱のときには13歳だったので処刑を免れ、不比等の4人の子が南家・北家・式家・京家に分かれて増殖していき京の貴族社会を席巻していったわけよね。とくに藤原北家による他氏排斥は、事件として歴史に刻まれているぐらいで、その最初とされるのが承和(じょうわ)の変で、承和9年ね」
「842年やあ」
 と、土門くんが即答した。老舗骨董店の坊(ぼん)なので和暦⇔西暦の変換は幼少期から仕込まれている。
「次は応天門の変だけれど、大伴氏が完全に没落させられるのよね。これは貞観8年」
「866年やあ」
「次が阿衡(あこう)の紛議で、仁和4年ね」
「888年で覚えやすいぞう。ちなみに777年は宝亀8年やけど、これといって何もあらへん」
「次は昌泰(しょうたい)の変で、ご存じ、右大臣の菅原道真左大臣藤原時平の讒言によって太宰府に左遷されたのは、昌泰4年」
「それは901年や。そして延長(えんちょう)8年、930年には、清涼殿に雷が落っこちて藤原の貴族らが大勢亡くなりはって、その後も延々と道真の怨霊に祟られるんやあ」
 土門くんは、ことのほか嬉しそうにいう。
「そして最後が安和(あんな)の変で、左大臣源高明太宰府に左遷させられたのよね。これで藤原北家による他氏排斥が完了し、以降は摂政・関白が常置となって彼らが専横することになるのね」
「それは安和2年で、969年やあ」
「そんな最中(さなか)、他氏排斥がほぼ完了しかかっていた900年代の前半のころお話よ。仮にの話だけれど、この下野国に、国司として藤原の某(なにがし)の貴族が赴任してきたとするわよね。どんな感じがしたと思う?」
 と、パソコンに表示されている地図をさし示して、まな美はいった。
「それはもう……窒息するぞう !!!
「絶対に、窒息するわよね !! 周囲をぐるりと忌部の神々にとり囲まれていて、国衙の門には忌部の女神様が、南には忌部の大神様が鎮座されていたし」
「閉塞感たっぷりの地図を作ってくれという姫の要望通りに作ってみたんやけど、どうや?」
「よく出来ているわ……」
 まな美は、拍手して大喜びしながら、
藤原氏氏神が祀られた春日神社もあるにはあったんだけれど、古いそれは地図の外で、もう無いに等しいのね」
「さしもの藤原氏も、ここでは孤立無援やぞう」
「そして実際に、930年代、ここに国司として赴任してきた藤原北家の貴族がいたのね。それは誰あろう……藤原秀郷(ひでさと)よ」
「お! すごい有名人やんか! 別名を俵藤太(たわらのとうた)ゆうて、三上山(みかみやま)の大百足を退治をしはった勇猛果敢な武将や」
「それは伝説のお伽話で、実話の方ね・・・・・」

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                         さらにつづく