【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

まな美と土門くんが喋る〝小見の台地〟と〝星川〟の秘密

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 まな美は、ネットで拾ってきた地図をプリントアウトしたそれを眺めながら、うーん、と小首をかしげている。

   f:id:NARAI:20210307044208j:plain

「なんやそれ?」
 横からのぞき込みながら土門くんがいった。
「想定1000年前の関東平野の水脈地図……なんだけど、私たちが欲しいのって、さらに1千年ほど古い地図でしょう」
「そやったら、確かあったぞう」
 いうと土門くんは、炬燵の天板に積まれてあった書籍類から薄っぺらい一冊を引きずり出して、ぺらぺら頁をめくると、まな美に差し出した。
「これやこれや」

   f:id:NARAI:20210307054951j:plain

 「それって、なんだか良くわからないのよね……」
 まな美は不満げに口をとがらせている。
「ふふ、姫の弱点は地図やあ」
 と、土門くんは小声で揶揄してから、
「ほな教えたげるから、ここに書き込んでもええかあ?」
「ダメに決まってるでしょう」
 と、まな美に叱られ、しゃあらへんなあ、とぼやきながらも炬燵から這い出して、背後の床の間に置かれているスキャナーを使って紙にプリントアウトしてから再び炬燵に戻ってきた。ここは古色蒼然とした書院造りの奥の間だが、そこを歴史部の第二部室に使っているのだ。
 土門くんは、しばし黙々とあれこれ書き込みをしてから、それを使って説明を始めた。

   f:id:NARAI:20210307113108j:plain

「この端っこにあるんが〝星川〟や。古代には日本全国ここにしからあらへんという希有な名前の川や」
「それは分かるんだけど……」
「川と川のあいだが微妙に空いてるやんか。ここが小見(おみ)の台地で、元来星川はここに突き当たって南へ流れてて、さきたま古墳群の西側を通っとったんを、この台地を削って川をつないだいう話が、この本には載っとったわけや。『星川は、六世紀後半には小見台地を開削し新星川へ瀬替えされた』と断定的に書かれとったから、よっぽど確かな話なんやろう」
 ――著者の澤口宏は群馬県地理学会長だ。
「その、新星川、というのは?」
「それは確かに分かりづらい話で。これは別のとこに書かれとって、『以前の川筋を新星川と仮称する』と。つまり本で説明するための仮の名や。君の名はぁ」
 土門くんは、ちょっとボケてから、
「新星川が実際にあるんで話はさらにややこしい。地図よりも西側の源流域を、現代では新星川と呼んどうそうや。そやけど、古代には新もへったくれもあらへん。こうやって川をつないで、全体を〝星川〟と呼んどったはずや。それすなわち〝天の川〟を地上に模したわけやろう? な、なんともはや、なんと雄大な話やろか」
 まな美も頷いてから、
「すると、この赤い丸は、紫微垣(しびえん)の古墳よね」
「そや、小見真観寺古墳(おみしんかんじこふん)と真名板高山古墳(まないたたかやまこふん)で、りゅう座73番星と、きりん座43番星やあ」
「……ようやく分かったわあ」
 まな美は、パチパチと手を叩いている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

                         つづく