十数年前の話だが、館山市内でタクシーをひろい「安房大社までお願いします」と言って、「大社じゃない、あそこは神宮だ」と運転手から窘められたことがある。気を利かして言ったつもりだったが、裏目に出たようだ。
安房神社の所在地が館山市大神宮で、伊勢神宮・香取神宮・鹿島神宮・出雲大社などと同じく希有なる神郡(郡全域が特定の神社の所領と定められた郡)を有しており、実質神宮と言ってよく、境内には「勲一等安房座大神宮御鎮座」の石碑なども立っていて、そして世が世ならば(忌部〈斎部〉が中臣〈藤原〉と仲良くしていたなら)間違いなく〝神宮〟だったろう。
祀られているのは忌部の大神様、いや、倭(やまと)を代表する大神様・天太玉命だ。
拝殿は、いわゆる神明造りだが、鉄筋コンクリート製である。
この種の建物をコンクリートで造るのはお薦めしない。年数を経ると、単なるボロに成り下がるだけだからだ。かの品川神社も同様にコンクリート製で築50年ほどがたち、地方に行くとありがちな竜宮城を模した珍宝館のごとくに見すぼらしくなってきたので、現在大改修中だ。建造当時は、さぞや最新のデザインを凝らしたつもりだったんだろうが、年数がたつと陳腐で、侘び寂びなどは感じられないのだ。
さて、くだんの〝金比羅〟はというと・・・・・
明治の神仏分離令で「金比羅」という名称は使えなくなり「琴平社」とされているが、境内のしかるべき場所に鎮座している。グーグル地図のストリートビュー定点写真の安房神社拝殿周辺にリンクを張らせていただいたが、奥の大木の陰にわずかに見えているのが、琴平社だ。
拝殿を家の玄関だとすると、琴平社のポジションは、まさにこれだろうか。
――― 犬小屋。
金比羅は最強の軍神で、かつヴァーハナ(神の乗り物)として、忌部の大神様のそばに仕えているのだ。しかも、はるかなる古代から(西暦700年代あたりから)この位置関係で置かれてあったのでは、と想像される。 社殿の配置にも神々の物語が秘められているのだ。