【神神の契約】釈 

西風隆介による公式の謎本  

八雲立つ

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 この2枚の写真が、今回のムーの記事(2022年4月号)の白眉である。
 準備万端「八雲立つ」写真を撮影しに妻木晩田遺跡に行ったわけではないのだ。
 無論「全天虹」の写真も同様だ。
 撮れたのは、まったくの偶然である。奇遇とでもいうべきか。
 これを撮影に至った秘話をご説明しよう。


                     つづく

西暦0年頃の美保湾

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 弓ヶ浜半島は、古代は島々で構成されていたのだ(上の地図は勝手な推測図で、夜見島・ムカデ島・タコ島・粟嶋の位置関係以外はデタラメだ)。また米子平野なども、かつては海の下だ。
 夜見島は、現在の境港市あたりだが、『出雲国風土記』の国引き神話に登場する。
 ムカデ島とタコ島は、現在の江島と大根島だが、こちらは出雲国側なので風土記に記されている。
 粟嶋は『伯耆国風土記逸文にある。
『大山寺縁起絵巻』1398年には、ほぼ弓ヶ浜半島が描かれているそうだ。だが粟嶋は依然として島のままで、1700年代の半ば頃に、ようやく地続きになったのである。

 といったような古代の情景をふまえて、八雲立つ仕組みをご説明しよう。

 

              つづく

淤美豆奴神・八束水臣津野命

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 八束水臣津野(やつかみずおみずぬ)命は、『出雲国風土記』に登場する主神(いわゆるトリックスター)で、「八雲立つ」が出雲の語源であると説いたり、有名な「国引き神話」の陣頭指揮をとった神様だ。
古事記』にも記されてあって、淤美豆奴(おみづぬ)神で、須佐之男命と櫛名田比売の4世孫となる。大国主命は6世孫だが、この系図の続きはこちらになる。

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 さて、興味深い書籍を紹介しよう。『解説・出雲国風土記』今井出版2014年だが、全面カラーの大判で、内容はすこぶる充実しており、だが1852円と格安の本である。その中で、次のように解説されている。
国引き神話によれば、ヤツカミズオミヅヌが最後に降り立った場所は「意宇杜(おうのもり)」である。しかし、出雲東部にこの神を祭る神社はない。また国引きは西から東に向かって順番におこなわれている(中略)。このような点を踏まえると、この神はもともと出雲東部ではなく出雲西部で信仰されていたのではないか。出雲西部には、冨神社や長浜神社などヤツカミズオミヅヌを祭神とする神社がある。出雲西部では、『出雲国風土記』成立以前に小山を作った神としての素朴な神話が存在した可能性もある。出雲国造が出雲全体を掌握した時に、この神も小地域の国作りの神から出雲一国の国引きの神へと変貌したのではないかという考え方もできるのではないだろうか」

 先の解説は、裏読みするとこうなる。
「ヤツカミズオミヅヌは出雲東部の神だという考え方が昨今あるが、それは違うと考えたい!」
 このような考え方が出てきた原因は、いうまでもなく「妻木晩田遺跡の発見」にあったわけで、妻木晩田(出雲東部すなわち伯耆)の方が出雲西部(出雲大社側)よりも古く、約100年先行しているからである。
 この本は、実は「島根県教育委員会の発行」で、口さがなくいえば、ある種のプロパガンダ本だ。いわゆる「出雲ブランド」を宣伝・教化・洗脳するために書かれており、だから採算度外視の上製本なのだ。

「島根」と「鳥取」の覇権争いは、人知れず水面下で繰り広げられているのであった。

 

妻木晩田遺跡

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 日野川の河口域の東側、大山のすそ野に、知られざる古代の遺跡群「妻木晩田遺跡」がある。
 漢字は読めないし、ほぼ誰も知らない遺跡だろうが、近い将来、日本一有名になること請け合いだ。というのも、ここは邪馬台国時代(および弥生時代)では日本最大の集落遺跡で、なおかつ古代出雲の最初期のムラで、その全貌が解き明かされつつあるからだ。
 20数年前に「大山スイス村」という大規模リゾートを作ろうとして偶然発見された(リゾート開発はバブルが弾けて頓挫)。標高80~180メートルの丘陵地帯にあって、約50万坪という広大な遺跡で、まだ1割程度しか発掘調査を終えていない。建物跡が約1000、墳墓が約40、古墳が約70(西暦250年を歴史区分に、それ以前の弥生時代のお墓を「墳墓」、以降のそれを「古墳」という慣習だ)、土器、石器、鉄器などの遺物も多数出土している。

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まな美と土門くんが喋る「謎の決戦場」

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「お兄さんの写真に《決戦場》とネーミングされたファイルがあって、こんな写真がたくさん入っていたのよ」
「岩だらけやなあ、川に」
 土門くんは、見たままのことをいう。
「場所は、伯備線の生山(しょうやま)駅の付近らしいんだけれど、古戦場なんかあったかしら?……」
「どこなんやあ?……」
 と、土門くんが地図を開いた。

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生山駅のとこに〝石霞渓〟という景勝地があるんで、ここやな。ちょうど川の分岐点で、数キロに渡って奇岩怪石がごろごろ転がっとうそうや。本流が日野川で、支流が石見川いうそうや」
「じゃあさっきの地図の、右端に見えていた川の上流域よ」
「そやったら、たたら製鉄で残土を流しまくっとった川やんか。土砂だけやのうて、こんな大きな岩まで流しとったんか!」
「それはさすがにないと思うわ。付近の山肌の写真もあって、もう岩だらけなので、それが落ちてきているのよ」
「わ~こわ! 年に何個か今でも落ちてくんのんちゃう。おちおち釣りでけへんぞう」
「それにしても、何の決戦場かしらね?」
 まな美は首をかしげるのだった。

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まな美と土門くんが喋るバッタもんの「須我神社」

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「お兄さんちからパクってきた写真の中に《×印》のフォルダーがあって、中に入っていたのがこれね」
「なんやあ? 須我神社ぁ?」
 いかにもいかがわしそうに土門くんはいう。
須佐之男命が八岐大蛇を退治した後、櫛名田比売と結婚したでしょう。そのさい〝須賀〟に宮を建てたと『古事記』にあるのね。その須賀だというわけよ」
「そやけど×印がついとったんやから、違うんやろ?」
 まな美は、小悪魔顔でうなずいている。

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「それで日本初之宮かあ、それに和歌発祥の遺跡とあるやんか。八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を~」
 土門くんは、その有名な和歌を滔々と詠んでから聞く。
「そやけど、これはどないな意味なんや?」
「そういうのはね、もう感じるがままに感じればいいのよ」
 まな美は投げ槍にいってから、
「この地方には須義禰命(すがねのみこと)という氏神さまがおられて、それが本来の祭神だったらしいわ。そもそも『出雲国風土記』には、八岐大蛇の伝承そのものが書かれていなかったし。それにもちろん、この須我神社は式内社でもないし……」
「それは結局やな、この神社はバッタもんやったいうわけや」
「そうそう、そのバッタもんだけれど、それはどういう意味なのかしら?」
 まな美は知っているが、白々しく聞く。
「葉っぱの上におるバッタやんか。見つけるとすぐに飛んで逃げてしまう。人にじーっと見られると正体がばれよるねん。そやから、ぴょんぴょんと飛んで逃げるわけや。そやからバッタもんいうねん」
「そうそう、それそれ!……」
 全然辻褄が合ってない説明だが、まな美は手を叩いて嬉しがるのだった。

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                            つづく

 

まな美と土門くんが喋る「弓ヶ浜半島」生成の秘話

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弓ヶ浜半島は、その名前のとおり、奇麗な弓状になっているけれど、古代は、2千年ぐらい前だと全然ちがっていて、この地図の、米子市の白っぽい場所は、大半が海だったのね。この地域の山間部では、古代から〝たたら製鉄〟をやっていたでしょう」
「そやそや、玉鋼(たまはがね)の生産地やな、日本刀の原材料になる。日本で最初の刀鍛冶は、たしか伯耆の国の人やぞう」
 土門くんは骨董屋らしい注釈をする。
「玉鋼の原材料は砂鉄なんだけれど、山を削って砂鉄をより分けて採るわよね、その残った土を、全部、川に流していたのね」
「そ、そないなことしたら、川どろどろやんか!」
「実際そのとおりで、農業に影響が出ない冬の間にやっていたそうよ。そして上流からどんどんどんどん日野川に土を流していくでしょう。それが積もりに積もって、現在の弓ヶ浜半島が出来てしまったそうなのね」
「いくらなんでも積もりすぎや、土流しすぎやぞう」
 土門くんはあきれていった。
「境港のあたりに夜見(よみ)の嶋という比較的大きな島があって、江島(えしま)と大根島(だいこんじま)は古代からあって、ムカデ島とタコ島と呼ばれていて、他には粟嶋みたいな小さな島が幾つかあった、というのが古代の情景なのね」
「そやったら中海は、今は汽水湖やろうけど、古代は完全に海やったんやな」
「そう」
 まな美は、こくりと頷いてから、
「だから粟嶋神社には、神様は海からやって来たという漂着伝説があるのね」

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スクナヒコナは天乃羅摩船(あめのかがみのふね)に乗ってきたと『古事記』にあるけれど、この羅摩って、ガガイモのことなのね。ところで土門くん、ガガイモって見たことある?」
「知らへん」
 土門くんは素っ気なくいう。
「見るとビックリするわよ。私も知らなかったんだけれど、写真を見て驚いちゃったわ。もうね、あれとそっくりなの……」
「な、なんのことやあ?」

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                         さらにつづく

 

              申し訳ありません、これはつづきません。

              理由はこちらで、つづきの部分が語られているからです。

まな美と土門くんが喋る「でぃーぷな地域」と「布多天神社」

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「姫がかっさらってきた写真をもとにして周辺地図を作ってみたぞう。そやけど、こないなとこに黄泉比良坂(よもつひらさか)があんのんかあ?」
「その謂(い)はゆる黄泉比良坂は、今、出雲の国の伊賦夜坂(いふやざか)と謂ふ。と『古事記』に書かれていて、妻のイザナミが祀られた揖夜(いや)神社というのがあって、古い式内社で、その近くに設定されているそうよ」
「幽霊好きの小泉八雲の家なんかもあったりして、でぃーぷな地域やなあ」
「ディープ? ディープぅ?」
 まな美は、疑わしい目で土門くんを睨んでから、
「それに妖怪神社って、そんな写真は含まれていなかったはずだけど?……」
「それは自分が気を利かせて付け足したんや。前に歴史部のみんなで行ったやんか。調布の布多天神社と深大寺に。あそこも妖怪だらけで調布と境港は妖怪同盟の市なんやで。そもそもゲゲゲの鬼太郎はやな、布多天神社の裏手の森に住んどってなんやから。ほな、そのときの写真をどっと公開しよう・・・・・」

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「実は布多天神社って、この一連の話と関係がなくはないのよ。ここの主祭神スクナヒコナだったでしょう」
「おっ、さすが先見の明や」
 土門くんは自画自賛してから、
「そやけど粟嶋神社の粟嶋は、全然島ちゃうやんか!」
「それにはね、長~い歴史の積み重ねがあったの……」

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                         さらにつづく

まな美と土門くんが喋る「粟嶋神社」と「八百比丘尼」伝説

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スクナヒコナ伝承って、伯耆の国風土記の逸文に載っているのね」
「いつぶん? て何や?」
「出雲の国風土記は全文が残っているんだけれど、お隣の伯耆の国風土記は、逆に、ほぼ消失してしまい、でも他の書物に引用されていたような文章が何行か残っていて、そういうのを、逸した文と書いて、逸文って言うのよ」
 まな美は丁寧に説明したが、
「……節分の親戚かと思たぞう」
 土門くんは与太をいう。

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「なかなか風情がある神社だわよね。出雲大社伊勢神宮の遙拝所もあるし、石燈籠は凝っているし」
因幡の白ウサギやな。それに竜は、これはヤマタノオロチか? 一匹やけど……」
「神社の裏手には、人魚伝説の洞穴(ほらあな)があるそうよ。間違って人魚の肉を食べてしまった娘が不老不死になって、ずーっと洞穴に閉じこもって暮らしていたという……」

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「わわわわ! こ、この写真は、ぞんぞがさばる~」
 と、土門くんは肩をすくめて出雲弁でいった(意味はここを参照のこと)。

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                         さらにつづく

 

まな美と土門くんが喋る「スクナヒコナ伝承」の元祖

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「お兄さんちに遊びに行ったさい、すきを見て、写真を沢山かっさらって来たわ」
 小悪魔顔で、まな美がいった。
「どれどれ、どないなやつやあ?」
「まずはこれ! 元祖、スクナヒコナ伝承の神社ね」
「ああ、あの一寸法師の神様か。どっからか流れてきた思たら、ぴょ~んと葉っぱの茎にはじかれて常世の国へ帰ってしもたやつ」
 うろ覚えらしく、土門くんは極端にはしょっていう。
「その話の大元の神社が、実在するのね」

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                         つづく

ムー12月号《シャルル・ボネ症候群》

 11月9日ごろ発売の月刊ムー12月号に、『シャルル・ボネ症候群』の記事を書かせていただきました。
 目が悪いと他人の記憶が見える、といった例のあれですね。
 記事では掲載できなかった写真があったので、こちらで紹介しておきます。
 以下は『シャルル・ボネ症候群』論文の全文の原文です(シャルル・ボネ著『魂の諸能力に関する分析試論』1760年の原本(復刻版)より)。

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