真相、といえるほどご大層なものではない。感想、に近いだろうか。
ゲラー氏とは過去何度か会っており、30数年前だが正式にインタビューしたこともあって、GORO(小学館)1989年10月12日号に記事が掲載されている。
記事のタイトルにあるように「Mr.マリックは手品師、ユリ・ゲラーは本物の超能力者」といった主旨の記事なので、そのてんはご了承を願いたい。そして滞在先のホテルを訪ねると写真のようなラフな格好でのお出迎えだ。
彼の人となりを一言であらわすならば、「注意力散漫」系だろうか(もしくは、わざとにそのように振舞っているのかもしれないが)。
椅子に腰をおろしてじっくり話を聞こう、そういったタイプではなく、ペダルをこいだり何やかやと部屋の中を始終せわしなく動き回っているのだ。話もあちこちにバンバン飛びまくるし(実は、このような彼の挙動不審ぶりが彼のトリックの伏線となっているわけだが・・・・・)。
ユリ・ゲラーといえばスプーン曲げだ。これをやってもらわないわけにはいかない。だが我々もそれなりに知恵は絞っていて「超硬いヘンケルのスプーン」を持参していってのお願いだ。そして結果は記事の通りである。
目の前で硬いスプーンがみるみる曲がっていって一同驚愕 !! といったふうに記事は書かれている。実際、現場ではそのように見えた。だが現実は違うのだ。それは写真を注意深く見ていただければ分かるだろう。
時系列的には ① → ② → ③ だが、①の時点ですでにスプーンは曲がっていて、①から③の間には変化は無いのだ。
取材陣は総勢4人である。私、ライターさん、GOROの編集者兼通訳、そしてカメラマン。
ユリ・ゲラーは私達3人に向けて演技をしており、カメラマンはやや別角度から撮影していたためタネが写ってしまっているのだ。
曲がっているスプーンは③のように真横から見れば「曲がっている」と分かる。だが縦から見せられると判断しづらく、そしてスプーンの柄の尻尾が少しづつ持ち上がっていく、すると曲がっていくように見える、といったような演技をユリ・ゲラーはやってくれていたわけだ。
じゃあ彼は、この超硬いヘンケルのスプーンをいつどこで曲げたのだろうか?
それに関しては実は後日談があって、GOROのこの号が発売された後の話であるが。
当時GOROで超能力関連の連載をやっていた私だが、私本人は記事は書いておらず、写真の選定などにも関与せず、現場でコメントを言うだけのご気楽な立場だったのだ(文筆家としては素人とみなされていたため文章はプロに一任、というのが真相だが)。だから雑誌が発売されて初めて、どんな内容になっているのかが分かるのだ。そして後日、このGOROの記事を肴にしながら関係者と酒を飲んでいたと想像していただこう。
「あれ? ①の写真を見ると、スプーンはすでに曲がってるじゃないか」と私。
「う~んそうも見えるけど、我々の目の前で、確かにスプーンは曲がっていった!」
「そう見えたことは見えたんだけどなあ」と私は自信喪失ぎみになっていう。「ところでさ、彼は、このスプーンを持ったまま奥の部屋にいったん入って行ったんだけど、覚えてる?」
「ええ? そんなことしたっけ?」
「絶対に入って行ったはず。そして大量に写真を持ち帰ってきて、テーブルの上に次々と広げはじめたじゃないか、トランプみたいに」
「ヨーロッパの写真だろ、観光名所をあちこち訪ねて誰それに会った、とかいう」
「そう。その写真のトランプをしばらく続けていると、突然思い出したかのように、ルックルックルック~と言い出して、やおらスプーン曲げを始めたわけさ」
「ええ? そんな段取りだったっけえ?」
と、他のふたりは覚えてないと言い張るのであった(カメラマンには確認していない)。
じゃあユリ・ゲラーは完全なペテン師なのかというと、一概にそうとも言い切れないので話はややこしい。数年前の記事だが、こんなのがある。
u-note.me
同様の記事はライブドアニュースにも出ているが、これはCIAの極秘情報というわけではなく、超心理学の専門書をひもとけば過去に公開されている話なのだ。それに当時のスタンフォードの実験は、複数の超能力者でやっていて、野球でたとえると、ユリ・ゲラーは補欠クラスで、超人的なエースピッチャーが君臨しており、実験はそちらをメインにやっていたわけだ(インゴ・スワン)。ユリ・ゲラーは短期間でDFA(戦力外通告)となっている。
まあ結論としていうと、物理系の超能力者としてはペテン師。
情報系の超能力者としては、B級、といったあたりが真相ではないだろうか。